原宿に死す

お前が消えて喜ぶ者はオールで殴ればすぐに死ぬ

点けるタイプの魔法

8時ちょうどには目が覚めていたが、暖房器具のない部屋は寒すぎて布団に籠城しているうちに昼になっていた。

いい加減起きねばとくまちゃんの半纏を手繰り寄せたところでかたんと軽い音を立てて何かが落ちた。

甘い色の光を零す夜の街灯、あるいは魔法少女が悪と戦うためのステッキのようなライトだった。

きゃりーぱみゅぱみゅ2018年ツアー星屑のCHERRY MARTINIのコンサートライトだ。そうだ、昨晩はコンサートへ行った。そして興奮のあまり物販でコンサートライトとピアスを買って帰ってきて、布団の中でライトを点灯させて遊んでから寝たのだった。




きゃりーぱみゅぱみゅに会ってきたのだ!




生きていたんだ。僕が聴いた客席の少女の声に反応して笑っていた。ARではなかった。2次元でもなかった。同じ世界の延長線上に存在していた。

赤い幕が上がって、ステージの上の大きなマティーニグラスの中にきゃりーぱみゅぱみゅの姿を見た瞬間涙が溢れて、それから最初のMCに入るまでの3曲の間ずっと胸の前で指を組んで涙を流していた。前の席にはずっと腕組みで時々オペラグラスを覗いて頷く彼氏面おじさんがいたが、こちとら彼女面おじさんである。

でも泣いてばかりじゃない。すごく嬉しくて、楽しくて、胸がいっぱいだった。


チケットを譲ってもらった方に「こういうライブ初めてなんです」と言ったら「そうなんですね!きゃりーちゃんのライブすごく楽しいですよ!」と言ってもらったのを公演中時折思い出した。その通りだ。とにかく楽しかったのだ。

ステージセットは「2年半姿を眩ましていた伝説のキャバレー・ガールの復帰公演」というコンセプトに沿って、最初はきゃりーぱみゅぱみゅがすっぽり入ってしまうような大きなマティーニグラスやバーカウンター、次はどこかにあるようでどこにもないとどこか直感するくたびれたキャバレーの入り口、そして最後にぴかぴか光るKYARYのネオン。物理背景じゃん!すごいな!?あとダンサーめっちゃ近い、バックダンサーっていうか彼らも曲の一部なんだ……すごい……未知の体験だった……


実のことを言うと、今回の公演で知ってる曲は数曲だった。なにせ追っていたのは何年も前、チケットを取ったのは3日前。そして原稿中。予習の時間もなかった。ていうか実は今も原稿中だし締切まで10日切ったんだけどこんなことしている場合ではない。死ぬのかな?


https://udur.hatenablog.com/entry/2018/12/05/143933


それはさておき、上の記事での最後に「ついていけるかわからない」と書いたのはそのことだった。普段アイマスしか行ってねぇ完全アウェイ人間でノリがわからないというのもあるが(コンサートライト振れなくて口惜しかったがとりあえずアイマスペンラ持っていくのはやめてよかった)、特にノれずただぼんやりと時間を過ごしてしまったらどうしようという懸念だ。

杞憂だった。本当に杞憂で良かった。

まず開幕曲「恋ノ花」の時点で聴いたことがなかった。だがその後の反応は上記の如くである。




アンコール。ぴかぴかの金の紙吹雪が大量に降って、しかしそれは客席には落ちず、あくまでも平面的にステージにだけ落ちていって、その瞬間ようやく「この世界の延長線上にいる」と輪郭を掴めてきたはずのきゃりーぱみゅぱみゅに現実感がなくなって、




ああ、そうか。神様が画面の中に帰っていく。




閉演後、改めて客席を見渡してみればいろいろな人がいた。

おじさん通り越しておじいさん。きゃりーぱみゅぱみゅみたいな格好の原宿系の女の子。恐らくは夫婦であろう二人組。僕と同様初めて来たらしい男性。ちょこんと座席に座る小学生くらいの少女たち。

みんなが「きゃりーちゃん」と呼んでいた。叫んでいた。

その一部としてあの場にいた。







「何かきゃりーに質問したいこととか言いたいことありますか?」と恒例らしい質問コーナーがあった。反射的に挙手した。真面目でひたむきな高校生のように、ぴんと高く手を挙げた。

きゃりー様、いや、きゃりーちゃんに会いたくて。特別に好きで。来れて良かった。こうやって見ているだけで泣けちゃって。どうしたら泣かないでいられますか。

言いたいことは決まっていたのに言葉にできる自信はなかった。それでも、手を上げた。

数人が選ばれて質問したりリクエストした後、「これで最後かな」ときゃりーぱみゅぱみゅが客席を見渡した。




「えーとねー……じゃあそこの、緑のTシャツの女の子!」




きゃりーぱみゅぱみゅが選んだのは僕ではなかった。

ああ、だけど、何故だか心が晴れやかになった。


「すきないろはなんですか」

「ラベンダー色!紫のパステルっぽい色が可愛くて好き!」


Kawaiiの体現者の好きな色を聞いたら、なんだかそれだけで泣けてきた。




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